読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ヤクとアヒル

日常の問題を解決したときにつけるログ

同人誌を個人がDL販売する際、特商法に従い実名を公開しなければならないのか?

暫定的な結論

どちらとも断言できない.個人事業者に該当するかが分水嶺

背景

同人誌を描いたのでデータの通販をしようと思い, noteBOOTHを検討していました.

そこで問題となるのが特定商取引法特商法)に基づく住所や氏名の公開です.
この法律は,おおざっぱにいえば安心して買い物ができるように消費者保護を目的につくられています.顔も名前も知らない相手から物を購入するのはトラブルの元になりますから,売り手の情報(住所や氏名)を公開することによってこれを防ぐわけです.インターネットで物を売るときには,誰もがこの法律を守らなければいけません.
一方,BOOTHのようなサービスを利用する人の多くは,個人の趣味で作品を販売することを目的としているため,店舗を持っていません.よって, 個人の住所を晒さなければならない ことになります.今の時代,住所や氏名を公開すれば容易に他の情報にもアクセスできます*1.また,ネットでの活動と現実での活動を結び付けられるのが困る人も多いと思います.

上述の事情から,匿名で売買したいので,本当に公開する必要があるのか調べました.その過程で個人の趣味レベルの売り上げ(数万円程度)と頻度(年数回)では開示する必要がないと私は考えるに至りました.しかし,経済産業省に聞きに行った方の記事によれば,開示する必要があるようです.本稿ではこれらについて基礎知識を整理し,論点をまとめています.
蛇足ですが,個人の趣味での販売に関しては法制度が追いついていない印象を受けました.インターネットを前提としたUGCの発展により,今後個人間売買は多くなると思いますので,さらに多くの事例がほしいところです.

注意

本記事はインターネット上の情報のみに基づき,法律を専門に学んだことのない人物が著しています.
なるべく正確に記述するため,政府機関や法曹の運営するのHPなど,信頼性のあるソースと判断したものを参考にし,出典はなるべく明記してあります.しかし,何か問題が起きても一切責任はとれませんので参考程度にお読み下さい.

特定商取引法とは

消費者の利益の保護などを目的とし,不当な損害を避けるために設けられた法律のようです.

法令の詳細はこちらから見ることができます:特定商取引に関する法律

何が問題か:実名および住所公開問題

特商法では,通信販売においては販売業者(個人事業者を含む)は以下の項目を開示する必要があります.

  • 氏名または登記された商号
  • 住所
  • 電話番号

参考:通信販売広告について|消費生活安心ガイド

実名や住所を公に公表したくないので,気になるのは,自分が販売業者であるかどうかです.
個人で物を売っている人たちの全てが販売業者というわけではありません*2.例えば年一回のバザーで物を売ったとしても,個人事業者(販売業者)とは呼べません.
では,販売業者とはどのような人のことを言うのでしょうか.

販売業者の定義

特商法における販売業者の定義

平成18年1月30日付で,消費者庁による インターネット・オークションにおける「販売業者」に係るガイドライン *3 が出ています*4

これらはネットオークションの販売を念頭に書かれていますが,個人か業者かという線引きを意識したもので参考になります*5

特定商取引法において、販売業者とは、販売を業として営む者の意味であり、「業として営む」とは、営利の意思を持って反復継続して取引を行うことをいう。営利の意思の有無は客観的に判断される。
例えば、転売目的で商品の仕入れ等を行う場合は営利の意思があると判断される。

すなわち,以下の2つを満たしながら販売を行っている限り,販売業者です.

  • 営利の意思がある
  • 反復継続して取引している
「営利の意思」の有無の基準

ガイドラインには以下のように書いてあります.

営利の意思の有無は客観的に判断される。 例えば、転売目的で商品の仕入れ等を行う場合は営利の意思があると判断される。

同人サークルにおける「営利の意思」とは?

同人サークルの場合どうかの議論は探しあてることができなかったため,わかりません.
利益が出なければよいのでしょうか,それとも,利益を出そうという価格設定だと現実には赤字でも営利の意思があるとみなされるのでしょうか.はたまた,非営利団体のように,利益がでても構成員に分配せずに活動費として用いればいいのでしょうか.

「反復継続した取引」の基準

ガイドラインには特に記載はありません.したがって基準は不明です.

販売業者と見なされる例

前述の消費者庁のガイドラインにおいては以下のような基準が掲載されています.

  1. 過去1ヶ月に 200 点以上又は一時点において 100 点以上の商品を新規出品している場合
  2. 落札額の合計が過去1ヶ月に 100 万円以上である場合
  3. 落札額の合計が過去1年間に 1,000 万円以上である場合

詳しくは元リンクの記事を見ていただきたい.実際にはこれらにさまざまな制約がつくが,金額が大きいか,同じものをたくさん売ると販売業者とみなされるように思える.

同人サークルは販売業者か?

営利の意思も反復継続も事例が曖昧なので,販売業者と見なされる例を基準にする他ありません.よって,これを明らかに満たさない場合は販売業者で無いと解釈することになるはずです.

同人サークルと一口に言っても支出は多様なので,おそらくケースバイケースです.同人サークルかどうか,ではなく,販売業者の基準を満たすかどうかが重要です.

[読み飛ばし可] 参考:消費税法上における事業者(販売業者)の定義

消費税法上の事業者とは以下のように定義されています.確定申告などで事業者という単語が出てくる場合の定義がこれです.

消費税は、事業者が「事業」として行う資産の譲渡等を課税の対象としていますが、この場合の「事業」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続かつ独立して行われることをいい、その規模は問いません。

No.6109 事業者とは|消費税|国税庁

「反復,継続かつ独立して」行われるとはどういうことでしょうか.反復とは例えば年一回定期的にあったら反復になるのでしょうか?どの程度継続するのでしょうか?素人には判断できません.
なので,「事業者」に同人活動は当てはまるのか調べると,多くの場合そうではないようです*6

「趣味としての同人活動は、個別判断にはなるが、一般的には事業所得としては認められない」と税務当局は指摘する。事業所得は、その経済活動が「自己の危険と計算において、独立的に、営利性・有償性を有し、かつ、反復継続して営まれる業務であって、社会通念上事業と認められるかどうか」によって判断される。どのくらいの時間を同人活動に充てているのかも重要だ。

みなと財務ホームページへようこそ!

これは消費税法上の定義ですが,特定商取引法の販売業者も似ていますね.細部が違いますが法的にはどう解釈されるんでしょうか?

実例:各サービス利用者はどのような表記をしているか

実際には通信販売|消費生活安心ガイドにあるように,名前や住所を省略することが可能です.ただし,請求された場合は開示する必要があります.

BOOTHの場合

規約

BOOTHは 利用規約「第22条 BOOTHオーナーの義務及び責任」において,ユーザは特商法を含む法令を順守する必要があると明記されています. 各法律はBOOTHが守れと言わなくても守る必要があるので,特にこれといって不思議な点はありません.

ユーザの実態

適当に3人見てみましたが,公開している人はいませんでした.おそらく,むやみに名前を晒したくないと考える人が多いのではないでしょうか. なお,各商品ページの左下「特定商取引法に基づく表記」から確認することができます.

noteの場合

規約:クリエイターにかなり気を使っている

note FAQの8-1にある通り,noteは基本的に消費者庁ガイドラインにのっとり,販売業者かどうかを判断するようです.
すなわち,ガイドラインにおける販売業者に該当しなければ特商法に基づいた表記は必要ないというスタンスです.
また,8-4にある通り,開示請求を運営が仲介します.開示請求を受けたnoteの法務がガイドライン上の販売業者かを判断して対応をするようです.これは特徴的で,クリエイターを守る立場が明快です.クリエイターの個人情報を勝手に開示しない旨も明記されています.
開示請求を行うユーザは,販売者開示請求申請書を書く必要があり,本人確認のための書類の添付もしなければいけません.このような措置は開示請求のハードルをあげるため,イタズラへの抑止力にはなるでしょう.

BOOTHの場合は開示請求がBOOTHに要請された場合どういう対応をするのか気になります.

ユーザの実態

連絡先については,適当に3人見てみましたが名前などの表記はなく,「省略した記載については、電子メール等の請求により遅滞なく開示いたします。」となっていました.これはnoteでのデフォルト表記です.

議論:対立する意見

特商法事業者を規制するものです.弁護士ドットコムの質問,にもあるように,販売側が「業者」(もちろん個人事業者も含む)でない場合はこの法律は適用されません.「業者」であるかないかの線引きがすなわち法の適用範囲を決めることになります.その線引きが消費者庁ガイドラインでしょう.このガイドラインを「明らかに」満たさない限り,開示義務はないと私は考えます. しかしながら,これに真っ向から対立する意見もあります.しかもガイドラインを作成した経済産業省の言質です.

Q:表示義務のガイドラインに当てはまらない売上規模でも開示請求に応じる必要があるか
A:ガイドラインガイドラインであり、開示請求に応じる必要があるかどうかとは別もの。 開示請求には遅滞なく応じてください。

【追記あり】noteの有料販売における特定商取引法について「消費生活センター」と「経済産業省」に凸してきた話:92のブロマガ - ブロマガ

参考:個人だから特定商取引法の対象にならない?|92aki|note

ただし、個人的にはこの回答は「事業者(個人事業者を含む)」を前提にしているのではないか?という疑問を持ちました.ガイドラインの基準をぎりぎり下回るならともかく,明らかに満たしていないのであれば,そもそも事業者ではないのだから,開示請求に応じる論理的な必然性がないためです.消費者庁とともにプレスリリースを出している経済産業省が開示と言っているのは根拠が不明です.

問題は事業者かどうか,すなわち「営利の意思を持ち」「反復継続」して取引しているかにつきるでしょう.しかし事例が少なく理解することができません.基準を官僚がぼかすぐらいですし,僕は断言できません.裁判で決まることなのでしょう.

先の大村弁護士の回答にある,以下の見解が穏当だと個人的には思います.

純粋な言葉として反復継続して収入を得れば事業、という定義に固執すれば、確かに当てはまらなくはないかもしれませんが、それでは事業という概念が広がりすぎるため、ガイドラインで、事業者の範囲を明確にしているわけです。

まとめ

  • 特商法の対象になる場合,氏名や住所を公開しなければならない.省略は可能だが,請求された場合遅滞なく*7公開する.
  • 特商法の対象になるかどうかは消費者庁経済産業省)のガイドラインが目安となる
    • 経産省に聞きに行った方のQ&Aも参照の上自己責任で出しましょう.または法曹に聞きに行きましょう.

参考:違反した場合のペナルティ

特定商取引法Q&Aからかなりざっくりとした引用をします.詳細はリンク先を見てください.

違反の段階ごとに決まっているようで,指示があり,違反した場合罰金がとられ,また業務停止もあり得ます.

指示

事業者に対し違反行為の是正又は改善を等必要な措置を取るべき事を指示することが出来ます。

指示に従わない場合,100万円以下の罰金が科せられ,業務停止命令の対象となります,

業務停止

事業者に対し、一年以内の期間を限り、通信販売に関する業務の全部又は一部を停止すべきことを命ずることができます。

業務停止に従わない場合,2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられます,

委託販売では公開の必要があるの?(とらのあなメロンブックス,DMM等)

多分無いと思うんですが,ちょっと調べた限りでは分からなかったので知っている方コメントお願いします.(力つきた)

変更履歴

  • 2014年8月19日 2:23 消費税法上の販売業者の定義を追記
  • 2014年8月19日 2:33 「まとめ」節を「議論」節に変更.「まとめ」節を追加.
  • 2014年10月29日 19:57 「注意」節を追加.「背景」を加筆修正.「消費税法上における事業者(販売業者)の定義」を加筆
  • 2015年6月7日 13:50 イントロダクションにおいて特商法の概要が既知であることを前提にしていてやや難解だったので,概要を加筆.
  • 2016年3月28日 2:59 noteの規約が変更されていたのでリンクを差し替えた

*1:例えばFacebookやLinkedInで名前を検索するという方法があります.所属する企業や交友関係は簡単に割ることができるかもしれません.

*2:記事を書く際に,いくつかこの問題についての個人レベルでの議論を読みましたが,どうもここを勘違いしているのではないかと感じる議論もありました.

*3:ガイドライン|消費生活安心ガイド

*4:「インターネット・オークションにおける「販売業者」に係るガイドライン」でググる経済産業省のニュースリリースがトップページに出てきますが,同等の内容です

*5:というよりも,これしか参考にするものがないぐらい法制度が整ってないようです.生業以外で趣味で少額の金銭的やり取りを行うようなことが大きな問題になったことがないのでしょう.ガイドラインの注釈には「本解釈指針は、こうしたインターネット・オークションの特性を踏まえて作成したものであり、その他の特定商取引法の取引類型には当てはめられるべきものでないことは当然である。」とあります。

*6:ここで多くの場合と表現したのは,コミケ等の調査を読むと,事業所得と認められるか判断が難しいほどの大きなサークルは全体の1割もいないと感じるためです.例えばコミックマーケット準備会の2014年の資料にあるサークルの収支(p.20)を参照.

*7:販売方法、申込みの有効期限等の取引実態に即して、申込みの意思決定に先立って十分な時間的余裕をもってという意味.:通信販売|消費生活安心ガイド

スポンサーリンク